どうしても彼に伝えたかったこと

ターミナル駅の地下は、GWの人ゴミでごったがえしていた。
私はいつものようにフィットネスクラブからの帰り、通いなれたその地下道を改札に向かって歩いていた。
そのとき、5〜6メートルくらい前から歩いてくる若い男性に気付いた。
何気なしに視線を漂わせて歩いていた私が、なぜその男性に注目したのかまったくわからない。
ただ、正面から歩いてくる若者。


20代前半と思われるその男性、どことなく香取クンに似ていた。
背格好も顔の造りも、日本の芸能界で屈指のあのグループの一人に似ているってことはハンサムと言っていい部類。
たぶん本人もそれに気づいてるかも気づいてないかも。
大きくクリッとした目、少々エラの張ったがっしり系の顎、ぽってりした唇、ほんの少しぽっちゃりした体系だけどスタイルが良くて目立つ、そんな若者。
そう思ったって、別に一瞬のうちにすれ違うだけの関係。
ただそれだけ。
いくら若い男の子ウェルカムの私だって、そんな若者に対して特別な感情なんて抱くわけもない。


しかし。
しかし、そこで私は一つどうしても彼に伝えたいことがあるのを発見してしまったのだ。
今すぐに、そっと、素早く、誰にも気づかれずに、伝えたいある事実。
だから一生懸命、目で訴えた。
「わかってお願い」「どうしても伝えたい事実があるの」「ねえってば!」


彼は怪訝な顔で私をチラ見しただけですれ違って行った。
「オバハンなに見てんだよー」と彼の心の声が聞こえた。


できることなら彼の耳元で囁きたかった言葉。



「チャック全開」