男とサンドイッチと牛乳と

木曜日17時ごろ某地下鉄車内。
ある男に注目している私がいた。
その間約8分、駅にして四つ。


私が乗った車両は混雑というほどではなく、座席は100%埋まってるけど立ってる人は少ないくらいの乗車率。
私はいつものように進行方向を向いてドアの横に立つ。
ドアにほぼ垂直な体の向きで、隙あらば7人掛けの座席の端にある金属のフレームに体を預けようと。
と、その定位置に納まった私の目に入ってきたのは正面の7人掛けに座っている、手前から2番目の男性。


年の頃は推定40代前半、風貌は石田純一を年相応に老けさせた感じ(だって石田氏はそう見えないけどもう50よね?)
彼は、黙々とサンドイッチを口に運んでいた。
膝の上にある小さなコンビニの袋から出現にしたに違いない、たぶん野菜ツナサンド。
なんかコンビニ食品のわりにはパンがフワフワしてて具も適度な量ですごく美味しそうに見える。
彼は、それを正面に顔を向けて無表情のまま、一心不乱に食していた。
咀嚼しているその横顔はなんだか馬が草をはんでるように見える。
もちろん誰も彼を見ようとしない。
少なくとも彼の視野に入る乗客は誰も。
急いでる風もなく、かと言ってゆっくり味わうでもなく一個目を食べ終えた彼は、当然のように2個目にかかる。


彼の左隣はおそらく40後半か50前半のサラリーマン。
最初はロコツに嫌な顔をしていたけど、一個目の途中から目を閉じてしまった。
心なしか体は彼を避けるように左側に傾けている。
右隣はどう見ても20代、蛍光イエローのナイロンジャケットを着た若者。
一心不乱にPSPをやっている。
隣で食事が始まってることは匂いでわかってると思うが無感心。


駅にして二つ過ぎたあたりで男は2個目のサンドイッチも食べ終わった。
一個完食するのに約2分は平均的タイムか。
しごく満足した表情、恍惚にも近かったように思えたけど、正面から見てないので確認できず。
そして次に袋から取り出したのはパック入りの牛乳。
たぶん300ml入りのそれを彼はストローを使って飲み始める。
一口ずつ味わうように、さっきのサンドイッチより丁寧に時間をかけて飲んでいく。


ここで右隣の青年が立ち上がって降りるために私のいるドアに向かってくる。
そして降りる間際に自分の隣でサンドイッチを食べていた男を見る。
その視線は一瞬だったけど、青年の気持ちは痛いほどわかった。
きっと彼は次に会う知り合いにこのこと話すんだろうなあ。


男は相変わらずストローで一口ずつ牛乳を飲み続けている。
その横顔は、ちょっと神経質そうで先生とか研究者かもしれないと勝手に想像する私。
更によく観察してみても特に変わった点のない普通の男性に見える。
取り立てて言えば、この蒸し暑いのにかなりサイズが大きめのスエードのジャケットを着てるくらいか。


そして彼は牛乳も飲み終え、コンビニの袋に戻してからギューっと両手でその袋を小さくまとめる。
これでおしまい。
何事もなかったかのように。
そのとき私が降りる駅に到着。




こうして8分間のドラマは終わったわけですけど。
公共の乗り物の中で食事をしてはいけないって規則はないけど、やっぱり奇異に映るなーと思いました。
若い女の子がお化粧するとか、リーマンさんがPSPに夢中とかは普通だけど、中年男性がそういう目立つ行為って珍しいですよね。
だいたいおとなしくひっそり座ってる人多いですものね。
これがもしジャニーズ系の若い男の子だったら…。
いややっぱないわー。